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Cymruのお喋り

Cymruのお喋り

RS異聞記2 2

天空邸、祈りの間。

中央に描かれた魔法陣からシャボン玉のように浮き上がる水晶球の中に、円ではなく楕円、または砂時計のように中心が絞れた形の水晶が浮かび上がっていた。

それら変形した水晶を集め、例の円柱に丁寧に納めてゆく。

”あまりに歪みが進み、わらわが制御できぬ規模のポタが開くことは
避けたいのぅ・・・”

当初は彼女が”強すぎる輝き”と呼んだ水晶球しか納められていなかった円柱は、今は下から半分ほどの煌きに包まれている。

”後は明日にしようかぇ・・・”

円柱がゆっくりと回転しながら魔方陣に納まろうとした時、
ふうの視界が墨を流したような黒い筋を捉えた。

ふうの顔色が変わった。

合掌し、指先を合わせたまま黒い筋に向かいゆっくりと腕を伸ばす。

大きく息を吐き、今度は思いっきり吸い込むとその腕を高々と上げる。

腕の先に巨大な水晶球が現れた。

そこに浮かび上がった光景は、よくあるギル戦の模様。

参加者に掛けられた支援魔法、両陣営から繰り出される氷雨・メテオ・ドラゴンツイスター等で、ほぼ真っ白な情景が広がっているだけではあるが、その中に明らかに周囲の者とは桁違いのオーラを放つ剣士が見えた。

ふうの能力を持ってしても特殊な閉ざされた空間の中でまで、
封印の力を及ぼすことは出来ない。

と、同時にふうの中に流れ込んできた、どこの誰ともわからぬ
吟遊詩人の歌声。

「城壁の中は靄に覆われ、中の者、指一本動かすこと叶わず。
いずこの世界より現れたのか、あまたの魑魅魍魎跋扈し、
武勇の誉れ高きものたち、なすすべもなく葬り去られる。

化け物たちは「紅き石」欲し、城内を彷徨う。
”王の間””宝物庫””王族たちの部屋”
石はあらず。

城の上空に城内を跋扈する怪物たちより更に怖ろしき紫の多肢生物あり。
石を探すことのみ欲するその姿は、空の星々の輝きを月の煌きを奪いて、怖ろしき瘴気発せり。

”探せ、探せ、探せ、さ・・・が・・・ぁ・・・あ・・・せ・・・ぃ”

石を護りしは若き魔法使い。己の力まだ知らず、石を護り逃げ惑う」

声はそこで急に小さくなり、続きを聞き取ることは出来なかった。

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ふうは俯いて唇をかんでいた。

「・・・あの忌々しい破壊神の使い魔が、
石への執念だけでポータルを通り、
この度の騒ぎを起こしたと?!」

外見は老婦人であるが中身は血気盛んな17歳である。

そして彼女の座右の銘は
「売られた喧嘩は借金してでも買う」

ふうの体からメラメラと白いオーラが立ち昇る。

「しかも、わらわが・・・このわらわが風塵の奔走をしておるというのに
邪魔をするつもりかぇ!」

本来の力で剣を振るう光源体の輝きに、
元の世界で彼を追っていた魔のものが魅き寄せられ、
地雷のように発動するポータルを開こうとしていた。

ふうはきっと顔を上げると、両の目に燐火のような怒りを浮かべ、
祈りの間を出て自室へ戻る。

手早く手紙をしたため、鳩に託してから
立て続けに”耳”をとばす。

”ルン、配下の者と直ちにまいれ!”

”ガディ、エバキュエイション、コーリング、タウンポータル
総てをマスターしている者を集め、内陣に待機”

”エゥリン、心臓、フルチャ、フルヒ、花、あるだけ支度してたもれ”

長(おさ)のただならぬ剣幕に天空邸に緊張がはしった。

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「本来、閉ざされた特殊な空間であるギル戦場に、
戦闘が始まってから入ることは禁止されておるのじゃが・・・」

そう、そんなことをすれば、
ギル戦を監理している公社と、もめることになりかねない。

「事態は急を要しておる。
わらわの力をもってしてもあの戦場に送れる人数は12名が限度じゃ。
後から1名、どうしても送らなければならない者がおるでのぅ。
すまぬが、エゥリン、ルンの他に9名で向かってたもれ」

どう見積もっても100名近い人数が入り乱れている戦いに
2PT弱でなにをしろと・・・

さすがの精鋭部隊にも動揺が見られたが、
ルンは短く応えると人員を2班に分け、
それぞれに役割分担を確認させた。

エゥリンと精鋭部隊から6名、
ここ天空邸で待機するコル係1名の8人PT、
残り3名とルンここで待機するコル係1名の5人PTが組まれた。

15分後、ふうの水晶球を使い、
タウンポータルマスターの天使たちが開いたポータルに
装備を整えたルン、エゥリンと精鋭部隊が消えていった。

そして・・・

アウグでは
教会の倉庫からなにやら重そうな箱を引っ張り出すビショの姿。
長い間使われていなかったらしい箱は埃まみれ、
箱の蓋を開ける前から咳き込みすぎて(涙目)の彼女は
それでも本人全速力で中の装備を身に纏い、天使に変身すると
消えた。

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Ruined Sbain Fortress

北東と南西に集結した両陣営は
要塞司令部、南側井戸街、南側空き地周辺でぶつかった。

模擬戦であるとはいえ、真剣勝負のギル戦。

戦場には血が流れ、肉や髪が燃える匂いがたちこめ
傷の痛みにうめく声が聞こえる。

両陣営から繰り出される範囲魔法で視界はほぼ0なうえ、
戦闘不能になって倒れた者を、激戦中に復活させることは叶わず、
地面に横たわり踏まれ放題になっているたくさんの人々。

この惨状にルンは顔色ひとつ変えなかった。

ギルチャで指示を出す。

「総員、ポータル出現予想地域まで全速力で移動。
倒れた者はおいてゆけ。後でコールで合流する」

全員ビショに変身し、不可視の指輪をつけてはいるが、
敵味方の区別なく飛びかう矢、投げもの、
飼い主にも制御不能なネクロのペット、範囲魔法が
容赦なく彼らを襲う。

”これは厳しい状況だ・・・”誰もがそう思った。

が・・・

”なんとしても、ポータルが開くのを遅らせてたもれ。
逆にその歪み、わらわが使わせてもらう!”

ただならぬ、
ある種の妖気さえ漂わせ言い放ったふう。

”残留思念の分際で誰に喧嘩を売ったのかを
よぉ~く思い知らせてやらぬと、調和するものも
調和せぬでのぅ・・・”

艶然と微笑み上機嫌で彼らを見送ったふうに
任務不履行の報告をするほうが
はるかに厳しい状況になるだろう(遠い目)

互いにミラー、パーティヒールを掛け合いながら
2つのPTは整然と進攻を開始した。

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なにやら緊急事態だというエウィンからの呼び出しで、
ジェイドの支援に派遣されていた天使たちが天空邸に戻った。

”エウィン様がご不在の間、私どもがお邸に待機いたします。
我々が戻るまで、お2人もこちらで待機願います”

連れてこられたのはマートンには懐かしいハノブの家。

”はぁ~い♪”ジェイドは素直に返事をして、部屋に入っていった。

マートンはといえば・・・

早速、台所を漁る。

「おっ、めっけ!」1本だけ残っていた酒発見♪

うきうきと栓を抜き、喉に流し込む。

・・・
・・・
・・・

酒は骨の間を通って地面に流れ落ちるだけ。

「ったく、うぜぇなこの体」半分空になった酒瓶を床に放り投げる。

なんだか無性に腹が立ってきた。

”だいたい、なんでオレが、こんなことに付き合わなきゃなんねぇんだよ!!!”

ワームバイトで遊んでいるジェイドは楽しそうであるが、
マートンはといえば、
壊れて再生壊れて再生しているだけ。

”オレに何をしろと!”本来優秀な鍛冶屋だったマートン。
自己修復速度と完成度がめきめきとあがっていくのが
虚しい。

”ジェイドはもともと破壊神の手下が再生した女の子じゃそうな・・・
あの子がこの世に戻ってきていることは、そいつらには筒抜け。
万が一何か仕掛けてきたとき、そなたが彼女を護ってたもれ”

”オレは火力じゃねぇ、他探しやがれ!!!”

”死者は死者にしか護れぬのじゃ。
あの子はおぬしのこと、強いマートンお兄ちゃんだと信じておるしな”

復活させられた時、狼人間の自分に
何のためらいもなく抱きついてきたジェイドの
信頼しきった無邪気な笑顔を思い出すと
断れない自分が悲しかった。

とはいえ、今のところ
何か起こりそうな気配は微塵もなかった。

当初の緊張がほぐれてくれば、折角この世に舞い戻ったのだから
大好きな酒の一杯も飲みたい。

が、この体では・・・

「3つもあるんだ、使っちまえ♪」

マートンは腰から赤いサイコロを取り出すと
「6でろ!」と唱えてころがした。

出目は・・・6

「やっぱオレってラッキー♪」

サイコロは消え、そこにはワンコ姿のマートン。

「う~ん、いいねぇ~・・・って、酒瓶投げんじゃなかったぁ~~~」

半分残っていたそれをラッパ飲み。

「うめえ・・・」手の甲で口を拭って、大きく息を吐く。
「これじゃあ足りねぇよな・・・」

あの日・・・
まさかここに戻ってこれなくなるなどと夢にも思わずこの家を後にしたあの日、
ディオから巻き上げたフルヒとフルチャ、心臓をしまっておいた棚を開ける。

「あったぁ!!!オレって本当にラッキー~♪

詰め込めるだけ鞄に入れて、
「ガキはおとなしく留守番してろよ♪」玄関に向かってウインク。
ウィズに変身するとヘイストをかけ、ハノブを後にした。

古都まで走り、ギル戦待機場で露天を開く。

どうせ仕入れはただ、周りの店より2割安い値段で鞄の消耗品をうりさばく。

小一時間で完売♪

「さてっと・・・どこで飲むかな」
いきつけのハノブは顔見知りに会う確率が高いのでパス。
古都も知人遭遇率がなきにしもあらず・・・

「あとは、ブリかアリアンか」腰の袋から白いサイコロを取り出すと
指ではじいて掌に受けた。
「おっし、アリアンだ♪」

マートンはテレポーターからアリアンに飛んだ。

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「おい、ミル・・・」
北側空き地付近で戦っていた敵を倒すと、
周囲ではまだ乱戦が続いているというのに、
アウィンはスタスタとミルティクに向かって歩いてきた。

「あなたという方は・・・」微苦笑を浮かべ
いらぬおせっかいと知りつつも回復とヘイストをかける。

「逃がすか!」
急に背中を向けたアウィンに向かい、矢が放たれる。

アウィンはそれをすっと避けると、
後ろから飛び掛ってきた剣士を一撃でしとめ、
またポイントを重ねた。

「ここでは話もできん、向こうに酒場があったな」
すぐ側で味方の傭兵が苦戦しているというのに、
剣を腰にしまい、また歩き出す。

「アウィン様・・・」一応味方にアスヒとヘイストをかけてから
ミルティクは主君の後を追う。

「もう個人戦は飽きた」

100名以上の傭兵たちが戦っているギル戦であるが
火力と支援が整ったPTは、ほんの一握りである。
個人の能力がいくら高くても、そういったPT同士が戦っている場所には、近づくことさえできない。

仲間内、または成り行きで組まれた寄せ集めPTは
すでにほとんどが、地面で踏まれる役になっている。

「石柱ごと敵をふっ飛ばしているランサーと魔法使いは骨がありそうだが、残念ながら同じ陣営だ」

それよりもアウィンが気になっているのは、
どこかで感じたことがある、
とてつもない瘴気・・・

もともとは戦士だったアウィンが、
盾を持つ剣士にならざるを得なかった左腕の傷がうずく。

ミルティクも感じていた。恐らくは主よりも先に・・・

首に下げている石が熱くなっていた。

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「みろ!」

要塞司令部がある東側上空。

アウィンが指差す先には白い雲。
が、それは通常ではありえないスピードで集合離散し
徐々に渦巻状に変化し始めていた。

その渦巻きの中心に
筆先からポツリと墨が落ちたような点が現れ、
渦に巻き込まれてゆっくりと回転しながら広がってゆく。

戦闘不能状態で踏まれ役になっていた者たちが
この異変に気づき始め、口々に騒ぎ立てる。

その発言に、戦っていた者たちもその手を休め、
空を見上げた。

今や黒い大きな塊となったそれは、
まるで巨大な”ドゥーム”が瞳を開こうとするように
ゆっくりとポータルを形成しはじめていた。

「総員、あのポタに向かいホリクロ!」
激戦の中を突破したというのに、
一人も欠けることなく、ポタの真下に集合したルンたちは、
天使に戻ると一斉に天に向かって、美しいクロスを放った。

ポータルは、それ自体に意思があるかのように揺らめくと
一度小さく凝固し、無数の・・・空を覆い尽くすほどの
ガーゴイルを吐き出した。

もはや、ギル戦場に敵味方の区別などなくなっていた。
幾千幾万ものモンスターに戦えるもの総てが立ち向かっていた。

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見た目はミルティクとそう変わらぬ細い体から、
とんでもない破壊力を持つ火、雷、水等の魔法を駆使し
戦う者たちがいる。

古都西口付近にたむろしているWIZたちと顔見知りになり、
この世界での魔法の使い方を学んだミルティクであるが
何とか会得できたのはもともと素地のあった回復魔法と
移動攻撃速度をあげるヘイストのみ。

”あんた、確かに魔法使いの素質はありそうなんだけど・・・”
憐憫の表情でそう告げられ、祖国での日々を思い出す。

”筋は悪くありませんが、この体ではレイピアを使うのがやっとですね・・・”
教官の憐れみの視線。
級友たちの失笑。

目の前では、自分よりも見るからに若く、魔力も弱いWIZまでが
次々にモンスターを倒しているのというのに、この私ときたら
10歳にならない子供の魔法使いですら使える火の玉1つ
呼び出すことが出来ない体たらく。

2人をめがけ、降り注ぐように襲ってくる敵に
たった1人で立ち向かう主を、アスヒとヘイストとで、
補助することしか出来ない自分に歯噛みする。

”何故、格式ある我が家の長子にこんな欠陥品が生まれたのだ”
士官学校を不適格として退学になったあの日、
うめくように言い放った父の冷たい視線を思い出す。

そう、自分はいつも、
なんの役にも立たない存在。

「ミル、ヘイストが切れた!」

主の声にはっと我に返る。

「どうした、やられたのか?」
こちらを見る余裕もないのに、心配して声をかけてくれる主に
目頭が熱くなる。

「いえ・・・失礼いたしました。すぐに」杖を振り魔力をためる。

アウィンの背に美しい羽が煌いた。

「あり♪」この世界の冒険者が好んで使う礼を述べると
アウィンは無駄のない動きで襲ってくる敵を倒し続けた。

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「大変お待たせいたしました(涙目)」

ふうはポカンと口を開けた。
「・・・Cymru・・・かぇ?」

「はい(泣)」

目の前にいるのは全身鎧。

唯一見える二つの瞳が(大泣)になっているので
確かにCymruであると認識は出来た。

「決して死亡してはならないお役目と伺いましたので・・・」

「・・・・ま、まぁ、備えあれば憂いなしと申すでな^^;;;
今回の件、そなたにしか頼めぬ」

「かしこまりました」

もはや開くのを阻止できぬポタならば、開かせてしまえとふうは考えた。
開く瞬間、そのポタの持つ力を吸収できれば、それはふうが使える力となる。

「転んでもただでは起きぬ!
あの忌々しい破壊神の下っ端の力も、
バカとはさみは使いようの言葉通り、わらわが使ってしんぜようぞ!」

憤懣やる方がない様子。それでも満面の笑顔のふうが・・・
怖い(号泣)

「すでにルンたちが向かっておる。
彼らには、そなたがつくまで、決してポタが開ききらぬよう頼んである」

ふうの胸の前に掲げられた水晶にギル戦場の様子が映し出されていた。

「そなたは到着後、大切な客人を招待してたもれ」

「お客様・・・でございますか?」

「そなたならすぐに、誰を招待すればよいかわかるはずじゃ」

「はい」

「2人を収容後、ルンたちは一度ポタへの攻撃を止める。
その瞬間、ポタは全開するはずじゃ」

「はい(涙目)」

「空は裂け、巨大な紫色の多肢生物が姿を現す。
そやつには一切の攻撃は効かぬ」

「まあ(泣)」

「じゃが・・・そなたの退魔魔法なら
滅せられずともかなりのダメージになるはずじゃ」

「はい(大泣)」

「きゃつが元の世界に戻ろうと逃げ出し始めたら、
ルンに託した水晶でそれを塞ぎ、ポタの力はわらわがいただく」
拳を握り締め、にっこり微笑む。

「・・・」

「すまぬが急いでたもれ。もう、あまり時間がないようじゃ」

「かしこまりました(号泣)」

少々よたよたしながら、Cymruはその場から消えた。

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「Cymru殿、こちらのPTへ」
フィールドに入ると同時にルンからPTへの要請、
承諾後すぐにコールされ、皆と合流する。

エビ、ブレ、パーティヒール、パーティヒール、パーティヒール、ミラー。
全員が完全に回復したのを確認して
「よろしくお願いいたします」4、5匹のガーゴイルに攻撃されながら
まったく頓着せず丁寧にご挨拶。

一同^^;;;

賛美しながら意識を集中する。
本来であればこの時代の存在ではない存在を探す。

「いらっしゃいました。お迎えにいってまいります」

自分にも補助をかけると、Cymruは本人全速力で走り出す。

更に多くのガーゴイルが容赦なく襲い掛かってくる。
が、彼女にダメージを負わせることは出来なかった。

”いつものミスリルで大丈夫だったわね(涙目)”
と思いつつ、モンスターたちとというより
フルプレートアーマーとジャイアント兜の重さと戦いながら
なんとか酒場付近に辿り着く。

2人を確認し、エビ、ブレ、フルヒール。

アウィンとミルティクは、自分たちに何が起こったのかわからず
辺りを見回す。

「ごきげんよう^^」

そこにいたのは全身鎧。

「これが、ビショの補助スキルですか?」
ミルティクは自分の防御力の変化に驚愕していた。
さっきまで受けていたガーゴイルからのダメージが
全く入らない?!。

「はい^^・・・あら、お2人、PTでいらっしゃいますわね(泣)」

「・・・この状況でソロの方がありえんだろう!」
ミルティクを狙う敵と自分のそれで手一杯のアウィンは怒鳴った。

「申し遅れましたが、私は”紅涙の女神官”Cymruと申します。
お2人をお迎えに参りました」

二つ名をもつビショ・・・

この世界でそれが何を意味しているのか
新参者の2人にもわかっていた。

”アウィン様、二つ名を偽りで名乗ることは出来ません。
この者は誠の・・・”

耳の途中でPTが解散された。

”このビショ、女だぞ!”嬉しそうな主。

”はい?!”

”拝みたいだろ、彼女の顔♪”

”あなたらしい・・・”
女好きもここまでくると・・・ミルは内心溜息をついた。

「解散したぞ」

「ありがとうございます(感涙)」

PTが組まれると同時にコールされた。

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「総員攻撃停止!」

上空に輝いていたホーリークロス、ジャッジメントデイが消えた。

くねるようにゆらいでいたポータルがその巨大な瞳を開き始める。

開くにつれそれはアーモンド形に変形し、大きさを増しながら
葉巻のように細長く伸びてゆく。

「全員スキル装備」
ルンの指示に素早く反応するメンバー。

「おい、何がおこっているのだ?!」
ルンにつかみかからんばかりの主君をそっと止めるミルティク。
アウィンは舌打ちすると後ろに下がった。

「エウィン様、ご助力お願いいたします」

鎧も兜も脱ぎ捨て、神官姿でルンの横で祈るCymru。

”ここからじゃ、顔が拝めないぞ”不満そうな主。
”今はお静かに!”さすがにたしなめるミルティク。

あれほどいたガーゴイルたちが消えた。

ギル戦場に歓喜の声が響いたが、
「おい、太陽が・・・」それはすぐに消え、皆が空を見つめる。
今の今まで天空に輝いていた太陽が欠け始めている。
「日食か?!」

ゆっくりと、だが確実に薄れてゆく日の光。
大地から立ち昇り始めた冷気。

「なんだあれは!!!」

姿を現したのは紫色の多肢生物。
傭兵たちは素早く反応し、それぞれに攻撃を仕掛ける。
しかし統べての攻撃は怪物を通過するのみ。

アウィンとミルティクは金縛りにあったかのように
動けなくなっていた。

賛美し終えたCymruが立ち上がる。

「大いなる力に心より願います。我を平穏の道具としたまえ。
我をして迷える魂を導きたまえ・・・ターンアンデッド」

Cymruが掲げた盾から消えた太陽を思わせる光があふれ出した。
再び賛美する彼女の周りから広がる輝きとその光は融合し、
巨大な光柱となり空へ向かう。

紫の体がのたうちまわった。

「ターンは効くぞ」
様子を伺っていた傭兵たちが歓声をあげ、
参加していたビショたちはいっせいにターンを打ち始める。

それぞれの盾から溢れる光は光柱と絡み合い、きのこ雲のように天空を覆った。
たまらず、怪物は身を縮め、ポータルに逃げ込もうとする。

ルンはそのタイミングを見逃さなかった。

「総員、デストロイングアンホーリー!」
天使たちは手にしていたドラゴンの心臓を握りつぶし飲み干す。
途切れることなく放たれる魔法に怪物の動きが止まった。

ルンは印を結び、ふうから託された水晶球をかざした。

ビショたちのターンアンデッドと天使たちのデストロイングアンホーリーで囲まれた怪物の半身が溶け始めた刹那、
水晶に雷が落ちたような衝撃が走った。

爆風が辺りを覆う。

「きゃぁ~~~あ(涙目)」一人だけ軽装だったのが災いしたのか吹き飛ばされた神官1名(泣)

”ふう様、任務完了です”ルンはそれを目で追いながら報告。

邸で待機していたコル係が素早く反応する。

「おい、なんか飛ばされたぞ・・・」
明るくなってきた空を眺めていた傭兵たちが指をさした先の神官の姿が
消えた。

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金縛りは解けたが、
なんだかぎくしゃくしている体をさすっていたアウィンとミルティク。

「ようこそ我が邸へ、わらわはふうと申しますじゃ」

扉が開き、長身のミルティクの半分の背丈もなさそうな老婆が入ってきた。

「ダグザ王国のお世継ぎアウィン殿にお目にかかれるとは恐悦至極」

主の動揺が伝わってきた。

「そなた、何故それを知っておる!?」
口のききかたもすっかり世間ずれしてしまっていた主から
久しぶりに聞く言葉使いだった。

「おぬしの父の第3王妃は我らが一族の者でな」ふうは悠然と微笑んだ。

一族のほぼ半数の職業が”姫”と呼ばれるほど可憐な容姿に恵まれたティルアノグの民。
もう半数の”リトル”と呼ばれる者たちの中にはアイドルの名を欲しいままにする者もいる。

全世界の王侯貴族たちと血縁となり、地位と名誉と財産を手に入れるにはもってこい。

”世界中に散らばる、美しいが性格の悪い魔女の継母伝承は
この一族がもとだな・・・”ミルティクは得心した。

「そなたは私の国を知っていると申すのだな」
アウィンは様々な想いを押し殺した声で呟くように尋ねた。
「私たちは国に戻らなければならない。
知っているのならその方法をお知らせいただけぬか・・・」
アウィンの手がそっと柄にかかった。

「まずはお茶をいただきましょうぞ」
ふうは満面の笑みを向けると手を叩いた。

すぐにお茶の支度が整えられ、テーブルには5人分のカップが並んだ。

「アウィン様・・・・」
柄に手をかけたまま、凍りついたように立ち尽くしている主の腕をそっと引き、席に着くように促すミルティク。

”あせっても仕方ございません”

アウィンは小さく首を振ったが、自分を見つめるミルティクと視線があうと溜息をついて目を伏せ、一番近くの椅子にどかりと座り込んだ。

「お言葉に甘え、失礼いたします」
にっこりと微笑み優雅に一礼して、ミルティクは主の下席に座る。
「失礼ですが、どなたかお見えになられるのでしょうか?」

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「お待たせして申し訳ございません(涙目)」

潤んだ瞳で現れたのは、取りたてて特徴のない女性。
だが、その手に引かれているのは・・・

”これは・・・聞きしに勝る生命力だな・・・”ミルティクは思わず身を乗り出した。

羽が生え全身が真っ赤な・・・
身長70cm
胴回り60cm位の・・・

「でかいトカゲだな」思わず呟くアウィン。

σ(=^‥^=)トカゲさんじゃないじょカムロだじょ♪

カムロはトテトテとアウィンに近づくと

~(= ^・・^)=o 握手だじょ♪

「あ・・・ああ」アウィンは、つい握手をしてしまい、とまどったようにミルティクを見る。

”これはこれは・・・”
戦うことを生業とするアウィンに、初対面で剣を握るための手で握手させた赤い生き物。
ミルティクは内心舌をまいた。

カムロの足が止まった。

(=^‥^=)σ見っけだじょ♪

ミルティクの首にかかっていた石が彼の顎の辺りまで浮き上がっていた。

いつもは赤黒いその石が、今は深紅の輝きを放っている。

「ほぅ・・・」ふうは目を細めてそれを見ている。

「これは私のものです!」ミルティクは立ち上がるとその石を両手で掴み胸に押し当てる。
いつもは冷静な彼からは想像できないくらいの動揺ぶりであった。

自分の膝の高さからじっと見上げるカムロと名乗った赤い生き物。

(=^‥^=)ゝ任せたじょ♪

「御子よ・・・・良いのですか?」ふうは驚いてカムロに呼びかけた。

(=^‥^=)σ一緒にいたいって言ってるじょ♪

相棒が肌身離さず持っているその石が、
昔自分が与えたものであることなどアウィンは覚えてはいなかった。
下々のものに何か与えるのは、上に立つものの務めだと、
ものごころついた時から教えられていたアウィンにとって、
それはなんら特別な意味も持たぬ贈り物であった。

それがたとえ、ミルティクにとっては
人生を決めるほどのものであったとしても。

------------------------------------------

「私にもご挨拶させて下さいませ」

目の前で起こったことの意味を十分に理解しながら、
先程入ってきた女性は何事もなかったように微笑み、
カムロを抱き上げると席につかせてから、残った席の前で丁寧に礼をした。

「ごきげんよう、皆様。ご挨拶が遅れ、申し訳ございません(涙目)」

その柔らかな口調にはっと我に返ったミルティクは、
慌てていつもの微笑を浮かべると席に着いた。

そちらに軽く会釈して女性は言葉を続ける。
「先程の戦闘でご一緒させていただきましたCymruと申します。
どうぞよろしくお願いいたします」

潤んだ瞳で見つめられ、アウィンは視線を宙に泳がせた。

”これは落とすのが大変だ・・・とか考えていらっしゃいませんか?”
すかさずミルティクは”耳”を飛ばす。

”そ、そんな・・・相手は聖職者だぞ!!!”

”あなたにそのような分別がございましたとは♪”

「ちなみにそこの赤い御子は、由緒あるエンシェントドラゴンの幼生であらせられますじゃ」
真っ先に自分に注がれたお茶を優雅に口に運びながらふうは補足した。

σ(=^‥^=)ノ カムロだじょ♪

「どっ、ドラゴン・・・この赤いちんちくりんがか?!」

o⌒◇)<火火火火火火

カムロは一応加減して、アウィンに向かって火を吹いた。

------------------------------------

テーブルクロスとナプキンとアウィンの装備の一部に
焦げ跡を残しつつお茶会は終わった。

「お気持ちはわかりますじゃ。が、今そなたたちが国に戻ることは叶いませぬ」
ふうは穏やかにではあるが、きっぱりと宣告した。
「こちらの世界にいらっしゃる間のお手伝いはいたします。
しばらく堪えていただけませぬか?」

アウィンとミルティクは顔を見合わせた。
状況を考えると選択の余地はなさそうではあったが、
この者たちが信用できるか否か、なんとか探らねば・・・

と、扉が開き、

、., ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ /( =゚ェ゚=)ヽ ピョンピョン

ピョンピョン /(=゚ェ゚= )\ ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ 、., ⌒ 、.,

「ん?」

「?・・・」

(=^‥^=)σ ディオちんだじょ♪

「ねぇ、ねぇ、どこかのお国の王子様がいらしてるって本当?!」

小さなウサギが変化し、目の前に現れたのは白いドレスに身を包み
蝿殺しと呼ばれるスリングを手にした女の子。

「わっ~~~」キラキラと輝く瞳で歓声をあげると客人のもとに駆け寄る。
「なんて素敵な方なんでしょう・・・・」紅潮した頬に手を当ててにっこりと微笑む。
「Diolchと申します。ディオとお呼び下さいませ」優雅に礼。

「ご丁重なご挨拶いたみいりますレディ・・・」
ミルティクは膝まづくとディオの手をとり口づける。
「我が主はあちらにおわすダグザ王国のお世継ぎアウィン様でございます。
私は従者のミルティクと申します」

半ばうっとりとミルティクを見つめていたディオは、怪訝な顔つきであたりを見回す。
「えっ~~~あっちがお付の剣士に見えるぅ~~~」遠慮会釈なくアウィンを指さす。

「ディオ様(涙目)」Cymruが慌ててディオの袖を引く。

「ま、不細工ではないけど」視線をミルティクに戻し「この方に比べるとね・・・」

ふうはといえば噴き出すのをこらえ、わざと難しい顔をつくって下を向いている。

「無礼者!」アウィンは真っ赤な顔で柄に手をかけている。

「あぁ~~~むきになってる~ガキっぽ~い」
ディオはアッカンベーσ(゚┰~ )

”一国の王となられる方がこのようなことで取り乱してはなりません、アウィン様”
ミルティクは内心苦笑しながら”耳”を飛ばす。

「まあ、よい。子供の戯言など気にしても仕方がないわ」
アウィンは近くの椅子にドカリと座るとプイと横を向く。
「ガキに興味はないしな」

ディオは素早く蝿殺しをかまえ、にっこりと微笑み・・・

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「そのくらいにしてたもれ」
すかさずふうのラビットラッシュが飛び、ディオを拘束する。
「わらわから見れば、子供の喧嘩にしか見えませんぞ。
やがてはそれぞれ一国の主となるべき者同士精進なさいませ」

「この生意気なガキがお世継ぎの姫だと?!」
アウィンはしげしげとディオを見る。
「ありえんな」満面の笑みで呟いた。

「・・・こんながさつな王子様なんてありえなぁ~~い」
再びアカンベーσ(゚┰~ )

(=^‥^=)σそっくりだじょ♪
アウィンとディオを交互に指差し、嬉しそうなカムロ。

「本当に良いご友人になれそうなお二人でございますわ」

「さようでございますね^^・・・
ディオ姫、我が主をよろしくお願いいたします」

Cymruとミルティクに笑顔で睨まれてしまい、ディオもアウィンも黙るしかない。

”アウィン様・・・”

”なんだ?!”

”しばらくお世話になってはいかがでしょうか?”

”ああ、ミルがそう言うのなら私はかまわん”

即答だった。

主もこの者たちを気に入っていることが確信できたミルティクは、
ふうに近づき膝まづいた。
「お申し出、お受けいたします」

「大慶じゃ」ふうはにっこりと微笑んだ。

「皆様、どうぞよろしくお願いいたします」

まだ拗ねているアウィンを椅子から立ち上がらせミルティクは優雅に一礼した。

「これをお受取り下さい」
ふうが合図すると侍女頭が進み出て、盆にのせたゴールドを差し出す。

「先刻のギル戦、見せてもらったでのぅ・・・王子のお強さはよく存じておりますじゃ。
この先、そのお力をお借りする時のための支度金、収めてたもれ^^」

「王となるお方が焦げ跡つきの装備では不都合でございましょう。こちらへ」
控えていたエゥリンが進み出た。

アウィンとミルティクは武器庫と倉庫にも案内され、
武器防具アクセサリー消耗品など、望みのままに支給された。

「アリアンに家を用意させましたじゃ。お2人で自由にお使いになるがよい」

豪勢な邸宅ではなかったが、2人で暮らすには十分な広さを備えた一軒屋。
身の回りの世話係として数名のリトルがついてきた。

「やっとまともに生活できるな♪」

「あのお館様のところのお嬢様たちですからね、
つまらないことをお考えになられませんように!」
一応釘を刺すミルティク。

「し、心配性だなミルは^^;;;
よお~っし、祝いに一杯飲みに行こうぜ♪」

「行ってらっしゃいませ、ご主人様(はあと)」
メイド姿のリトルたちに送られ上機嫌のアウィンであった。

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さんざめく人々。
煙草の煙にけぶる店内。

”いいね~この雰囲気。
酒もうめえ。
死んじまって本当にわかるよな・・・
なんでもないようなことが幸せだったって”

どこかで聞いたことのある歌詞のような言葉を心の中で呟きながら
酒場の隅のテーブルに足を投げ出し、ジョッキを傾けるマートン。


店の扉が開き、剣士とWIZの2人連れが入ってきた。

「きゃ~、ミル様~~~」店の女の子たちが一斉に騒ぎ出す。

ミル様と呼ばれたのはWIZの方らしい。
長い手足、シルバーの髪、白い肌が薄暗い酒場の中で異様に目立つ。

WIZはあきらかに愛想笑いとわかる微笑で嬌声に答えると
カウンター近くの席についた。

「ったく、いいご身分だよな」
マートンの隣のテーブルで、やはり1人で飲んでいたビショが話しかけてきた。

「誰なんだい?」どうせ後1時間半で骸骨に逆戻り。
宵越しの金はもたねいぜぃ~気分のマートンは気前よく
そいつに一杯おごる。

「お、すまねぇな♪」
ビショというのは殴りビショと呼ばれる連中以外火力がなく、
ろくに狩りも出来ない。
したがって懐はいつも寒い。
見るからに嬉しそうにジョッキを空けたそいつに、もう一杯おごる。

ビショの話によるとそのWIZは、古都で噂になっているカリスマ占い師だという。

恋占い、探し物、なんでもござれ。
しかもあの見てくれであるから
その羽振りのよさは他の追随を許さないという。

「綺麗な男なんてどこがいいんだかねぇ、
オレみたいのといた方が女は可愛く見えるってのに・・・」
支援職には見えないがっちりとした体躯にごつい鎧をつけて
棍棒を持っているビショ・・・
噂の占い師とは真逆の外見のビショは、真っ赤な顔でいきまくと、
マートンの勧めるままにジョッキを重ね、つぶれてしまった。

「タイムリミットまであと30分。オレもそろそろ帰るか・・・」
2人分の会計を済まして店の外に出ようとしたとき、

”に・・・ちゃ・・・たす・・・て”
”耳”というより頭の中に直接響く声。
”こわ・・・よぉ・・・”泣き声。

”ジェイドか?!”

声が消えた。

”ジェイドはもともと破壊神の手下が再生した女の子じゃそうな・・・
あの子がこの世に戻ってきていることは、そいつらには筒抜け。
万が一何か仕掛けてきたとき、そなたが彼女を護ってたもれ”

ブロヌの言葉が頭をよぎる。

”ちくしょう!オレとしたことが・・・”

「失礼ですが、道を開けて頂けませんか」
ほろ酔い加減の連れの腕を肩に回したWIZが声をかけてきた。

「あんた・・・占い師だよな?!」
マートンは手元の金をミルティクの胸に押し付けた。
「頼む、助けてくれ」

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「では、その方のことをなるべく具体的に思い浮かべて下さい」

マートンの余りに必死な形相に気圧され、
酒場の中に戻ったミルティクは、
彼から受け取った金の一部をマスターに払い、
奥の部屋を借りた。

依頼人の探し人が女性だと聞いて、アウィンも酔いが覚めている。

「名前はジェイド。本当は赤ん坊だが、今はネクロか悪魔のはずだ」

「なんだそりゃ・・・」

「アウィン様、今はお静かに願います」優しく微笑みながらたしなめる。

「へいへい・・・」両手を頭の後ろで組んでそっぽを向く。

マートンの額に指をあてて、目をつぶったミルティクが
そのまま膝を突いて床に崩れた。

「ミル!」

すぐ横に居たマートンが慌てて腕を差し出したときにはもう
ミルティクはアウィンの腕の中だった。

”この剣士・・・はえぇ・・・”

「だ、だいじょうぶです」
弱々しい声で呟くとミルティクはのろのろと立ち上がった。

「お探しの方は閉じた空間に連れて行かれたようですね・・・
試しに少々コンタクトしてみましたが、はね飛ばされました」

結界術には多少自信があったミルティクは思わず唇を噛む。

「オレ、そいつ助けなきゃなんねぇんだ。場所教えてくれ!」

「場所とおっしゃられましても・・・」

「そこに近い町でもいい、教えてくれ!」

時間がなかった。

”この体のうちにせめて手がかりをつかんで
あのくそ婆ぁたちに知らせないと・・・”

「オレ、もうすぐ骸骨になる」

「はぁ?!」心配そうにミルティクを見つめていたアウィンが
呆れた様にマートンに視線を移す。

「はい、お探しする方もあなたも、すでにこの世の方ではないようですね」
さらりと言って微笑むミルティク。

「わかってるなら話は、はえぇ・・・この姿の間はオレ、鼻が効く。
骨に戻っちまったら、何の役にもたたねぇ。頼む、教えてくれ」

”何の役にも立たない子”
”欠陥品”

そういわれ続けてきた・・・その辛さなら知っている。

ミルティクはマートンに微笑みかけ頷いた。

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「広い町ではないですね・・・人も少ない・・・
噴水があります・・・町の中には明らかにWIZが多い」

「スマグだ・・・・」

マートンは部屋を飛び出した。
アウィンとミルティクが追う。

「ビショさん、起きてくれ!!!」先程まで飲んでいたテーブルに戻り、
鼾をかいているビショを起こす。

「ん・・・あぁ・・・兄さん、すまねえなぁ~もう飲めねぇ・・・」

「ウォーターキャノン」WIZに変身したマートンの杖から水が吹き出しビショを直撃した。

ブツブツいいながらも
スマグへのタウンポータルを開いてくれたビショに礼を言うと、
3人はスマグへ飛んだ。

スマグに到着したのは剣士、WIZ、骸骨・・・

「ほんとに骨になりやがった・・・」面白がってつついてみるアウィン。

ガラコンと崩れるマートン。

「アウィン様、一国の王となる方がなさることでは・・・」

「はいはいはいはい・・・」ミルティクの説教をさえぎって辺りを見回す。

「ぱたっとぱたっと~♪」
人懐っこく近づいてくる小さなモンスター。

「へえ~可愛いな」アウィンはそれを肩に乗せた。

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スマグの西側にある古びた建物。
その中には何やら高速に回転する黄土色の円形のものがあり、
ひっきりなしに何かが出入りしていた。

建物の奥、壁にびっしりと並んだ本棚の一角に触れた2人のWIZの姿が消えた。

再びその2人が現れたのは、それがどこであるのかを示すものが何も無い部屋。

部屋の中央に五芒星。

2人がそこにメテオをうつ。
と、まるでロマの火のような炎があがった。

煌々と照らし出される部屋の中。
WIZの1人がロングコートの中から瓶を取り出し、中の白い粉を炎に振りかける。

炎の中から白く楕円形の繭のようなものが浮かび上がり、2人の前で床にころがった。

チラチラと揺れる炎がそれを照らす。

中にいるのは、まだへその緒がついている赤ん坊。
指をしゃぶり、すやすやと眠っている。

”こいつの無心さはいつ見てもヘドが出そうだ・・・”
WIZの1人が吐き捨てるように呟く。

”あの時は質より量で集めたんだ、仕方あるまい”
印を結び、手の中に黒い水晶球を呼び出したWIZが苦笑しながら答える。

水晶球に映っているのは、
ワームバイトでモンスターを捕らえては逃がしているネクロの姿。

・・・
・・・
・・・

”な、なにをしているんだ???”

”・・・私に聞くな!(遠い目)
が、生き返らせたのは、あのいまいましい茶飲み婆ぁだな”

”かといって、我々の計画が漏洩してその邪魔をしているわけではなさそうだ”

前回の企みが当初目標の半分の成果しかあげられなかったのは、
想定外のジェイドの行動と、ろくに火力もないので放置したワンコが乱入してきたのが原因。

どんな小さな芽も早いうちに摘まぬと
思わぬしっぺ返しがくると学習した2人は、
ジェイド復活の理由を探るための機会をずっとうかがっていた。

護衛の天使とビショがなぜか引き上げてくれた今が、千載一遇のチャンスと拉致してきたが・・・

”おい?!”

”ああ・・・”

黒い水晶に3つの影が映っていた。

”このガキはどうでもいいが・・・追ってきたのはなかなか・・・”

WIZは顔を見合わせるとクックックと低く笑い、炎を消すと、闇にまぎれた。

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「オレ、ちょっくら助っ人呼んでくるから、戻るまで見張っててくれないか?」

タイムリミット直前にミルティクに預けていた鞄を受け取り、
”ギルドホールの時計”を取り出すとマートンは2人を交互に見、懇願した。

「どうなさいますか?アウィン様」

「さっきもらった装備、試してみたい。誘拐犯と戦わせてくれるならOKだ」

「よっしゃぁ~オレって本当にラッキー~♪じゃ、ちょい行ってくるぜ」
マートンは時計を使い、消えた。


”犬がいなくなったな・・・”

”あぁ・・・あの犬、弱いくせにあなどれん・・・”

”運も実力のうちとはよく言ったもんだ・・・”
黒い水晶に気を送りながらボソリとこぼす。
”よし、そろそろいいぞ・・・”

2つの影が揺らめき、消えた。


自分の体の中でなにかが蠢いているような感じがした。

「ミル・・・お前・・・」主の声にはっと顔を上げる。
「髪が・・・」

振り向いて噴水に顔を映す。

ミルティクの銀の髪がゆっくりと黒く染まってゆく。

呆然とする2人の周囲に人はいるのだが、
魔法都市といわれるここスマグでは
この程度の怪異は日常茶飯らしく、
気に留めるものはいない。

「どうかなさいましたか?」
ロングコートにフードで顔を覆ったWIZらしき人物が声を掛けてきた。

「相棒の髪の色が・・・」
思わずその人物のコートの袖を掴んだアウィンに至近距離から
「ストーンタッチ」反撃する暇もなく石化するアウィン。

それを脇に抱え、不満げに纏わりついてきたぱたっこを杖で叩き落す。

「アウィン様!!!」
駆け寄ろうとしたミルティクの背中に、
いつの間にか現れたもう1人のWIZが
同じ魔法を呟いた。

フードに顔を隠したまま目配せした2人は、2つの石像とともに
消えた。

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「きゃ~~~」
ホールに響く甲高い悲鳴に、廊下に居た数人の天使が飛び込んできた。

「どうした?!」

「お掃除してたら・・・骸骨が・・・急に・・・」
リトルが指差す先には小さな黒い骸骨。

「どっから入ってきたんだ?!」

1人が機転を利かせビショに変身する。

「ターンアンデット!!!」

煙のように消え去る骸骨。

「ありがとうございます」

「いや~、たいしたことないって♪」
リトルに(感涙)されて上機嫌の天使。

で・・・

「オレの話を聞け~~~」と本人全力で叫んでいたのだが
その声をリトルの悲鳴に完全にかき消されたマートンは
ターンアンデットで存在自体もかき消されて、どこかに漂っていた。

「ここはどこだぁ~~~なんでこんな目にぃ~~~」

「何をしておるのじゃ?」

もやもやと何かが集まり、目の前にはいつか見た女性の姿。

「ったく、生き返らせるならもっとまともな姿にしやがれってんだ!
こっちゃ、一大事だっていうのに!!!」

ブロヌは合掌するとゆっくりと掌を離す。浮かび上がる水晶球。
「ふむ・・・」

「こんなことしちゃいられねぇ、ジェイドが大変なんだ!」

「まあ、落ち着いてわらわの話を聞いてたもれ」
ブロヌはゆったりとした口調で話し始めた。

「ジェイドはすでに死者じゃ。おぬしもわらわもじゃが・・・。
死んだものはもう死なぬ。
唯一恐ろしいのは魂を喰われることじゃが、ジェイドは特別でな、
あの子には邪念がないのじゃ。
魔のものたちが魂を喰らうためには相手の望みをかなえてやらねばならぬからのう。
欲の無いジェイドの魂を喰らえるものはおらん」

「だから放っておけとでも言うつもりかよ!」

”に・・・ちゃ・・・たす・・・て”
”こわ・・・よぉ・・・”
頭の中にこびりついて離れないあの泣き声。

「ジェイドはオレに助けてくれって・・・」

「今、ふうたちはそれどころではないのでのう」

ギル戦場で手に入れたポータルの力はそのままでは使えなかった。

ふうが作ろうとしているのは、
アウィンとミルティクを彼らの世界に帰すための、
いわば出口としてのポータル。

破壊神の幻影の残像思念が開いたのは、
こちらの世界に侵入しようという入口としてのポータル。

時空の歪みだけを残しポタの力を真逆の方向に向けるため、
ふうと数十名のリトルが祈りの間に篭っていた。

更に、
さすがの精鋭部隊もあの激戦の中、無傷とはいかなかった。
ポタの力がふうの水晶球に吸収される衝撃を
ほぼ1人で受けたルンも、しばらくは戦えるような状態ではなかった。

ギル戦中におこった怪異現象は公社にも伝えられ、
その場にいた”二つ名”を持つ冒険者は、
すべて事情聴取に呼び出されていたため、
Cymruも動くことが出来ない。

「今、おぬしに手を貸せるものはおらん」

”お兄ちゃんすっごぉ~~く強くてかっこよかったんだよ”
はじけるような笑顔でじゃれついてきたジェイド。
泣き声で別れるなど、マートンには耐えられなかった。

「ちくしょう・・・」マートンは肩を震わせながらブロヌを睨みつける。
「わかった、オレがやる!オレをスマグに戻せ」

「・・・気持ちはわからぬでないが・・・おぬし1人で何ができるのかぇ」

「途中で剣士とWIZを雇ってある。
オレは運がいいんだ。あの2人、ぜってぇ使える!」

睨みあい。

折れたのはブロヌだった。

「おぬしの魂が喰われぬよう、気をつけるのじゃぞ」

「あぁ・・・オレ様の運をなめるなよ、婆ぁ」
ニヤリと笑い、マートンは消えた。



































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